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たった一人の読者を生きる / 荒井 裕樹 (著)

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例えば、「世界で自分だけしか読んでいないかもしれない物語」に出会ったとき、「こんなマイナーな作品について書いたり語ったりしても無意味だよな……」と思うか、「自分が書かなければ/語らなければこの作品は存在しなかったことになってしまう」と思うかは、それぞれだと思います。

もし、あなたが後者の側に立つとして、いざ何か書き残そうとしても、そういう些細で、身近で、時に儚い出会いのエピソードは、論文のようなかっちりした形式には馴染まなかったりするものです。だから本書では「エッセイ」、それも「おしゃべり」するような言葉づかいで、少なくない読者がきっと抱いたことがあるであろう「この物語をなかったことにしたくない」というあの感覚に、迫ってみたいと思うのです。

“ここで私が話したいのは、もっと小さくて、些細で、身近で、時には儚いものについてなんです。(中略)世界的なマスターピースよりも、親しい人の打ち明け話のほうが大事になってしまったり、友だちが出したぜんぜん売れない自主制作本のほうにより感動してしまったり、なんてことは、誰にでも、多かれ少なかれ、あると思うんです。/これって、実はすごいことなんじゃないですかね。自分の心だけを打つものがこの世界に瞬間的に誕生しているというか、どうしようもなく自分の心を打つものがどうしようもないくらい自分以外の人に知られてないっていうか、そんな現象が発生しているということなので。/この現象、取り立てて研究なんてされないですけど、けっこう大事なものだと思うんです、人間にとって。/なんというか、人って自分でも気が付かないうちに、たった一人の読者を生きている瞬間があると思うんです。”(「はじめに」)


目次
はじめに――一つの「物語」が居られるところ
「そのむごい人間が自分なんだ」
「川はいつもにごっている」
「日々の谷間に疲れてよりかかるイス」
読めない手紙
「女はすべて美しい」
愛読書にまつわる怖い話
言葉の網目で個を包む
無精卵の哀しみ
素がこぼれる
障害者について考えるのは誰の仕事か
「絶版」にさえなれない
大切な人の大切なものを大切にする
おわりに――欲しいのは語り続けるあきらめの悪さ
あとがき

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